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【よもやま話】「成均館スキャンダル」はドラマが好きですが原作も良いので語ります【ネタバレあり】

現在、我が人生史上最高値につけているドラマ「成均館スキャンダル」ですが、今回は活字の「成均館スキャンダル」について取り上げます。

 

こちらでもドハマりしていく様子を書いてはいますが

 

cinnamon2020.hatenablog.com

 

本格的にハマってからというもの、関連商品(DVDとかサントラCDとかガイドブックとか)を買い漁りまくる日々に突入するまで一週間もかかりませんでしたw

 

その感覚はまさに激流に巻き込まれていくかのごとく、気づけばネットでポチポチ(そして口座からお金が引き落とされるのも激流のごとく…)

 

使った金額は……まあ、あれですよ、こういうことのためにわけのわからんことをいうおっさんたちに囲まれて歯を食いしばって労働に励んでいるんだからいいんですよ、はい!

 

そのポチポチのひとつである原作小説の「成均館儒生たちの日々」「奎章閣閣臣たちの日々」

 

成均館儒生たちの日々 (上)

成均館儒生たちの日々 (上)

 
成均館儒生たちの日々 (下)

成均館儒生たちの日々 (下)

 

 

奎章閣閣臣たちの日々 (上)

奎章閣閣臣たちの日々 (上)

 
奎章閣閣臣たちの日々 (下)

奎章閣閣臣たちの日々 (下)

 

 

「成均館儒生たちの日々」は成均館での四人衆の出会いから科挙の合格までを

「奎章閣閣臣たちの日々」は成均館を卒業して奎章閣に配属になった四人衆、そしてユニとソンジュンの結婚までのすったもんだ(死語)を描いています。

 

韓国では2007年に出版されたベストセラーなんだとか。それを受けての2010年のドラマ化という流れ。

 

普段の私ならハマれば躊躇うことなく入手する類のものなんですが、実はどうしようかな?と当初ちょっとだけ悩みました。

 

全部で4巻(成均館編・上下2巻、奎章閣編・上下2巻)と、それなりにボリュームもある。

読まなくたって、これだけドラマも楽しめているし、絶対に読まないといけないってことでもなさそう。

 

なにより、ソンジュンのキャラが違うAmazonのレビューでちらほら見かけ、ドラマのソンジュンにメロメロ(死語)になっていた私としては「うーん…」としばし黙考。

 

しかし、違うなら違うでどう違うのかが気になりだし、結局購入に至りますw

 

以下、気になったポイントをあげていきます。

 

 

1.アレンジのしかたがうまい

 

初読の率直な感想はというと「なるほど」でした。

 

何が「なるほど」かというと

「やっぱりドラマはよく出来てたんだなあ、なるほど」

と。

 

原作4巻分に散らばっている設定やエピソードをうまく取り入れている、またはあえて省いていることによって、20話のドラマにまとめていることがわかって感心しました。

 

なので、もし読むとしたら「奎章閣閣臣たちの日々」まで読むことをおすすめします。「成均館儒生たちの日々」だけで終わるのはちょっともったいないかな。

 

 

そして原作を読んだうえで、やはりドラマ版が好きだなあと再確認。

でも、それは原作がダメということでは全くなく、むしろ良い原作という土台あってこそのドラマ化だと改めて感じました。

 

科挙の不正入試
男色騒動
杖打大会
新榜礼
紅壁書
渓谷の野遊会
妓生の変装

 

このあたりは原作にもあるエピソードだけど、そのまま忠実に再現しているわけではなくうまくアレンジを加えているのがドラマ化の成功の要因に感じました

 

興味深いことに大射礼はありませんでした(弓の稽古のシーンはあります)

あんな萌え萌えてんこ盛りのエピソードがオリジナルとは驚き。

 

花の四人衆それぞれの家庭事情や背景もドラマでは重要な設定でしたが、原作では特に確執があるようには描かれてません。

ユニの父親やジェシンのお兄さんと絡めた金縢之詞の話もドラマだけのエピソード

 

そんななかで、私がほーっと感心したのがユニの背の高さの設定

 

ドラマのレビューでも触れましたが、私が当初気になったのがユニ(パク・ミニョン)の背の高さ。

もう少し高かったら良かったのになあと思ってました。

 

ミニョンちゃんもそんな低いほうではないと思うんだけど、四人衆で並ぶと男性3人とも高身長すぎて相対的にあまりにも小さく華奢に見えちゃって。

 

男性の中に混じっても違和感がないくらいの背格好だったらもっと良かったのに…そこだけが惜しい、と思ったりしてたんです。

理想はチョソンを演じたキム・ミンソぐらい?(ヒョウンの人は高すぎw)

 

でも原作にはこういうくだりがあって。

 

お礼を言おうとユニは顔を上げたが、目の前にあったのは男の首、というより喉仏だ。
(中略)
ユニも女にしては長身なので普通の男と変わらないのに、彼はそれ以上だった。彼女の目の高さが彼の喉で、顔を見るには肩を広げて上を向くほどだ。


(成均館・上巻 p.32)

 

なるほど、こういう設定があの1話ラストにつながるのかあ、と納得。

 

こういうディテールは大事ですよね、うん。というか、作者さんも喉仏フェチと見ましたねw

 

ベストセラーになったのも頷ける面白さでしたが、それゆえドラマ化のプレッシャーも半端なかったと思います。

まとめられた脚本家さんの力量にも拍手ですな、これは。

 

 

2.キャラクター造詣が絶妙

 

ドラマのキャラクターも大好きですが、原作のキャラクターもその魅力は負けていません

ドラマとの違いは「ちょっと」から「かなり」までありますが、原作には原作なりの設定があり面白いです。

 

まず印象に残ったのが、ソンジュンの両親のキャラクターの味わい深さ

原作のソンジュンパパは、ソンジュンとユニにとって結婚に立ちはだかる相当に手強い難敵で。

 

「ふたり、絶対一緒にいるな」
「父上!」
「今の言葉は別の意味だ。その娘が一人でいる時は、皆だまされるのが納得できた。ところがふたりが一緒になると、いきなり女っぽくなる。本当に誰も気づいていないのか?」


(奎章閣・上巻 p.356)

 

気を付けていてもソンジュンの前では恋する女の子になってしまうユニに気付く鋭さがあり、それを窘めるとともに、秘密がバレることによるユニの身を案じている感じもして、なかなか一筋縄ではいかない魅力的なキャラクターです。

 

そして、ドラマでは影が薄かったソンジュンのママ

これがもう原作の中では一筋の光明というか、この人がいてくれたからふたりがめでたく結ばれたといっても過言ではないぐらい良いママなんです

 

なんだか「イタズラなKiss」の入江くんのママを彷彿とさせるキャラでw

 

入江くんのママが琴子とお兄ちゃん(入江くん)の仲を応援してくれるように、ソンジュンママもふたりの仲を応援してくれてパパに立ち向かってくれるのがめっちゃ頼もしいのです。

変装してユニの様子を見に行ったり、ソンジュンと結託したりと両班の奥様とは思えないお茶目な部分も。

 

そして、時にはパパを諫めたりも。

 

「そもそも婚礼とは、内主人(奥方)の管轄ではありませんか。私が許したことを今さら反対するなんて、内主人たる私に対して失礼ですわ」


(奎章閣・上巻 p.70)

 

ママー!かっこいいー!

 

パパに謝ろうとするときも、はいはい、今から謝りますよ、あーさいきん膝が痛くて、座るのも大変なのよね、はーよっこいしょ、みたいなボヤキをわざと入れたりして、笑わせてくれます。

こんなママにパパもちょっとたじたじw 

 

ついでに言うとジェシンのママもめっちゃよくて、あのジェシンもママには敵いません。

素敵なママたちは奎章閣編でいろいろ面白い会話を繰り広げてくれます。

 

そのジェシン、ユ・アインがキャスティングされたとき合ってないのでは、と言われたそうですが、確かに原作のジェシンはもっと大柄で粗野な感じではあります。


でも、心根の優しさや純情さはドラマとも共通していて、やはりユ・アインでよかったんじゃないかなと思います。

 

個人的に胸キュンとなったのは、奎章閣で二人きりになってよそよそしいジェシンに対してユニが避けられているみたいだとしょんぼりしたときの心の声。

 

『俺がおまえをなぜ嫌う?好きなのに。まだこうして一緒にいるのが辛いほど、好きなのに!』


(奎章閣・下巻 p.135)

 

ドラマではこんなはっきり心情を表す台詞はモノローグですらなかったので、うおおってなりましたw

 

ヨンハはキャラクター的にはドラマに近いんですが、設定がかなり改変されています。
中人ではなく両班ですし、なんと家同士で決めたワケありの年上の妻がいて、しかもその妻は一度も登場しません。謎のワイフ。

 

そしてソンジュンにとってのスンドルのように「トック爺」という従者がいます。彼も何かと活躍してくれます。

 

ヨンハが「暗行御史アメンオサ)」という地方官の査察を秘密裏に行う仕事を任命されたとき、人目を避ける必要がある任務にあるまじき服装にトック爺は驚きます。このときのやりとりも面白くて好きです。

 

「若主人様!いつものことですが、今日はまた特に派手派手しいですね」
(中略)
「いつ俺が、汚らわしいものを身につけたことがある?汚らわしくても唯一さわれるのは金だけだ」


(奎章閣・下巻 p.146)

 

こんな感じのヨンハですが、「奎章閣閣臣たちの日々」の下巻ラスト、ユニが女性であることが全て明らかになったくだりのヨンハの言動にはほんとうにグッときて泣けました

原作のなかでも特に好きなところで、心憎い配慮がある大人の男性の部分が存分に出てると思いました。

 

こんな具合で、主要キャストのキャラクター造詣についてまとめると

 

ソンジュン
愛想もよい完全無欠のジェントルマン

ユニ
もっと女の子っぽい?恋する乙女要素強し

ジェシ
もう少しワイルド、奎章閣編では結婚も

ヨンハ
既婚者で下ネタと女性が大好き

 

ユニママ
ドラマほどしっかり者じゃなくユニに頼り気味

ユンシク
奎章閣編では出番多し、ユンシクの恋愛もあり

ソンジュンパパ
ドラマより現実的で怖くて厳しいパパ

ソンジュンママ
心強い味方になってくれる素敵なママ

 

チョソン
ドラマほど大人っぽくない

ヒョウン
ドラマほど子どもっぽくない

 

ビョンチュン
先輩ではなく下級生(ユニを敵視している)

インス
いない(ドラマ版だけのオリジナルキャラ)

 

王様
もっと若い設定で四人衆にちょっかい出すのが好き

 

いかがでしょう?

ドラマのキャラクターで思い浮かぶ人もいれば、別ものの印象を持つ人もいそうですね。

 

さて私の愛するソンジュンとユニのカップ、これもまた肝と言いますか。

 

ドラマと違って出会ったときからお互いに気になるという、相思相愛みたいな仲でして。

 

彼の顔が見えた。はっと驚いた彼女はまたうつむいてしまった。至近距離にいたのは、美形の貴公子だった。自分が男子でいることも忘れ、ユニは顔を赤らめた。


(成均館・上巻 p.33)

 

ユニたん、ほぼ一目惚れです。

 

ソンジュンは、うつむきかげんで歩くユニの横顔を観た。この横顔がずっと見たかったのだ。病弱とはいえ立派な青年なのに、まるで恋人のように会いたがる自分が理解できなかった。


(成均館・上巻 p.81)

 

ソンジュンも似たようなものですねw

 

お互いが(もしくは一方が)悪印象から始まって、それがだんだん憎からず思うようになって、けんかしたり、すれ違ったりしたり、やきもち焼いたり…

 

みたいなのが私はだーーーーーい好きなのでw、設定だけで言うならドラマのほうがやっぱり萌えますね。

 

でも、この最初から相思相愛パターンでも、そこには「好きになってはいけない相手」という障害が設定されて、ふたりの秘めた恋心の描写が盛りだくさんで胸キュンします。

 

しかしまあ最大の違いは…アレですよ。

 

ドラマでは(ラストを除いて)キス止まりの、手を握るのもやっとみたいなプラトニックなカップルだけど

 

原作では性欲全開です(おい)

 

ソンジュンは性格は淡泊なのに、性欲はかくかくしかじか…のところは、あっ、はい…って感じでw

 

原作どおりのシーンを放送するには難しかったでしょうから、このへんの改変に文句がある人は少ないでしょう。

 

でも、こういう性描写は「男装女子」というテーマである以上、全くないとかえって不自然なところでもあるので、原作ではしっかり描かれていて納得したというかw

 

成均館編・下巻の「雨中情人」という章にこのへんの詳しい描写があるのですが、おかげさまで栞も挟んでないのに自然とそこが開けるようになりました(気合入れて読みすぎ)

 

そんな原作のソンジュンは愛情表現も直球!

 

「ずうずうしいけど、永遠にわたしだけを愛して、ってお願いしてもいい?」

おそるおそる尋ねたのに、彼はきっぱり断った。

「それはだめだ」

ユニは息が止まって彼を見た。言葉とは違い、愛情いっぱいに微笑んでいる。

「永遠にきみだけを愛するなんて、お願いしなくても、おれにとっては当たり前すぎる。だからそれはお願いにできないよ」

 

(奎章閣・上巻 p.33)

  

「きみと一緒にいられれば、この世界で、ほかに何もいらない」


(奎章閣・下巻 p.302)

 

こういう台詞をユチョンのソンジュンが言ってる…と脳内変換するとバケツ3杯分くらい鼻血が出そうです(死にますよ?)

 

ユニをどんどん好きになっていって悶々とするところはドラマと一緒ですし、ふたりがいい雰囲気になると必ず邪魔が入るところなんてコントみたいに面白いw

 

あと、ドラマになくて原作にあるものでいいなと思ったのが「阿郎(アラン)」

 

阿郎とは日本語で言うと「背の君」、いわゆる「ダーリン♡」みたいな言葉らしく、ふたりきりのときにユニだけがソンジュンに対して使う秘密の呼び名として登場するんですが、これが何かと便利なんですよ。

ドラマでは「あんた」とか「イ・ソンジュン(呼び捨て)」とかしか呼びかける二人称がなくて、こういうのがあったら字幕の担当者も楽だったろうになあとw

 

そうそう、原作のソンジュンは一人称が「おれ」なんですよね。そこもドラマとちょっと雰囲気が変わるかな。

 

 

3.小説としても楽しく読める

 

翻訳の上手さもあると思いますが、もちろんいち小説としても出来栄えは素晴らしいです。文章が綺麗だしリズムも良くてすいすい読めます。

 

また、当時の文化や成均館の慣習・行事なども詳しく載っていて、ちょっとした歴史の解説書的な役割も果たしてくれて勉強になりました。

 

ドラマとの違いとしては先にも触れましたが性描写がしっかりあって、また際どい下ネタも多いです。R-15くらいにはなるでしょうかw

 

ヨンハのあだ名「女林(ヨリム)」の由来なんて、とてもここで書けないレベルなので、ぜひ原作で確かめていただきたいw

 

あと、個人的に気に入ったのは比喩がひねりがあって面白い点。

例えば、これは艶っぽくもありつつユニークな表現と唸ったくだり。

 

おしどりの刺繍をした婚礼布団をかけて、横になって見つめ合うユニとソンジュンは、言葉を使わず目で会話する方法を研究しているようだった。


(奎章閣・下巻 p.391)

 

こういうのを読んでしまうと、今度は「原語ではなんて書いているのか?」というのまで知りたくなって韓国語の原作まで手を出してしまいました…w

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帯には「読者が選んだ最も面白い小説」と

 

 


原作と実写化作品というのは、なかなか難しい関係ではあります。

原作どおりじゃないと批判されるものもありますし、別物と割り切って楽しめるものもあるでしょう。

 

私は「成均館スキャンダル」は後者だと感じたので、もし読んでみようかな?と前向きに検討できる人なら、その背中を押すことに躊躇はありません。

 

もちろん読まなくてもドラマはドラマとして十分楽しめるようにもできているという印象は変わりませんが、一読の価値は十分にあります(^^)