風味絶佳

エンタメは人生のスパイス

【つまみ食いレビュー】悪とか正義とかについて「ヴィンツェンツォ」を観ながら語ります(ネタバレあり)

どこも人が多くて出かけるのはね…というタイプの方へプレゼンするドラマ・第2弾!

 

第1弾はこちら。

cinnamon2020.hatenablog.com

 

レビューを書いていたもののお蔵入りしていた「ヴィンツェンツォ」更新いたします。

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www.youtube.com

第一弾と第二弾、主演が元夫婦なのは本当に偶然ですw

 

ドラマの終了は2021年の5月末だったかな?それを待って視聴しましたが、面白さとテンポの良さもあ2日間ほどで観終わりました。

 

いやあ、これは一気見でよかった。

続きが気になりすぎて「来週に続く」形式はちょっときつかったと思うw

 

先に観た人によると「4話までは我慢して観て。そのあとにすごく面白くなるから」とあったんですが、私はわりと初回から好感触でした。

 

もっとダークでドロドロしているシリアスものかと思ったら、コミカルな部分もあって、思ったよりずっと観やすかったです。

 

音楽もクラシックやオペラを多用していて雰囲気を盛り上げてました。

特によくかかっていたのが「カヴァレリア・ルスティカーナ」の間奏曲。

 

私も大好きな曲です!

 

オープニングが洒落てるのも良かった。ちょっと「Catch Me If You Can」みたい。
このへんにもちゃんと凝るドラマが好きです。

 

以下、個人的に気になったポイントとともにレビューします。

 

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プロットのうまさ

設定には荒唐無稽な部分があるんですが、展開の早さ、伏線の張り方やその回収、小ネタの挟み方などのプロットの良さでそれをカバーしてるな、と。

…って、これ「ザ・グローリー」でも書いてるわw

最近の韓国ドラマはこのパターンが得意なのかな?というか、私がこういうドラマが好きと言うことでもあるんでしょうねw

ひたすらリアリティを求める人には向かないかもしれないけど、これはフィクションだと割り切れる人にはすごく楽しめる作品じゃないでしょうか。

 

筋立てそのものはわりとクラシカルな、いわゆる「西部劇」スタイルです。

ふらっと現れたヒーローが周囲の人に影響を与え、また本人も周囲の人間に刺激され変化し、そして問題を解決して去っていく。

 

初回、舞台となるクムガプラザの居住者が出てきたところで、あ、これが西部劇でいう「悪者に苦しめられている善良な街の人々」なんだな、この人たちと協力して悪を倒すんだなと、これからの展開が読めます。

そこに独自性として加えたキーワードが「マフィア」「イタリア」「お宝の奪還」…といったところかな。

 

それでも、わりとベタな要素が多いんですよね。

裏切りと共謀が繰り返され、敵と味方が入れ替わるのはマフィアものの定番です、ゴッドファーザー的な。

悪党とはいっても美学がある主人公が幼い頃に母に捨てられた傷を抱えている、というバックグラウンドもわりとベタ。

ちなみに、母親が出てきた時点で、これがのちのち主人公の弱みになることもだいたい予想できますw

 

しかしながら、予想がはずれた「ベタ」もあって。

それがトトのイタリア料理。

最終回あたりではトトの腕前もあがって、ヴィンツェンツォが合格点を出すシーンがあるのではと思ってましたが、特になくて良い意味で予想を裏切られましたw

 

とにかく話の運び方と演出が上手いので、少々粗があってもあまり気にならずに観続けられます。

こういうところは韓国ドラマの脚本家の力量を感じます。

 

特に好きなところが以下の3点。

 

①主人公がちゃんと頭がいい

たとえば敵のミョンヒが法律事務所に持ってきた観葉植物。

出てきた瞬間に「あ、これ盗聴器しかけてるわ」と気付きますw

これが普通のドラマだとそのまま情報が筒抜けという展開になって実にイライラするんですが、ヴィンツェンツォはちゃんと先回りして敵を出し抜きます。

 

②容赦せずに報復する

これ、「イ・サン」などが典型でドラマを長引かせる手法でもあるんですが、とにかく何度敵を仕留めても慈悲をかけて、なかなかとどめを刺さないんですね。

そのうえ報復も方法もさらっとしてて、甘い!とこれまたイライラ。

当然また寝首をかかれることになって、それで捕まえて、でもまた許してやって…ああイライラw

 

でもヴィンツェンツォは「(銃で撃ったりして)楽に死なせてやるものか、恐怖と苦痛と羞恥を味合わせながら地獄に送ってやる」なスタイルで非常に気持ち良いですw

 

ちなみに報復シーンのお気に入りは母親の件で殴り込みかけてきた17話の冒頭のところ。

ついに本気を出したヴィンツェンツォに震えあがる悪党組に胸がスーッとしましたw

ヴィンツェンツォを象徴する小道具である「ライター」からの流れで「火あぶりの刑」も悪党組の誰かにやるだろうと予想していましたが、それは観てのお楽しみで。

 

③小ネタがやりすぎてない

小ネタを仕込みすぎたドラマは好きじゃないけど、これも程よい匙加減でよかったです。

ヤン・ギョンウォンを「愛の不時着」のピョ・チスのネタでからかうのはお約束ですな。

 

「パラサイト」のイ・ソンギュンとソン・ガンホのモノマネも妙にツボでしたw

披露したソ弁護士役のヤン・スンウォンはコメディアンらしいです、どうりで!

 

そして、私が一番感激したのは他でもない、謎の祈祷師・ヨリム!!!

 

もうね、ソンス好きにはたまらないというか、感涙にむせびました。

このドラマを覚えていてくれている人が韓国の業界関係者にもいるんだと、ソン・ジュンギもこのネタを受け入れてくれたんだと、そういうことが嬉しくて嬉しくて。

ヨリム先輩は10年以上経ってもヨリム先輩でした(涙)

 


サブキャラの良さ

どういうドラマのレビューしても思うのが、やっぱりドラマの面白さのポイントは主人公以外のキャラの立て方ですね。主要人物だけ魅力的でもダメ。

 

クムガ・プラザの入居者たちも、ほんとうにいい味出してる人たちが勢ぞろいでしたね。

韓国の俳優陣の層の厚さを感じますw

特に好きなのが「クムガ洞のヌートリア」ことパク・ソクドを演じたキム・ヨンウン。

もうね、出てきただけで面白いw

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敵対していた側から仲間になる異色のキャラをうまく演じていました。

 

チャヨンの父であるホン・ユチャン。

ユン・ジェミョンは梨泰院クラスでは悪玉でしたが、ここでは人権派の弁護士。

役者って面白いなあとしみじみ感じさせるキャスティングですね。

どうでもいい情報ですが御年48歳というのに驚き!

日本だと堺雅人さんあたりと同世代?日本人が童顔なのか、あちらが老け顔なのか…w

 

バディとなるチャヨン演じるチョン・ヨビン

スタイルもよくて、ファッションも素敵でした。

このなかだとピンクのパンツスーツのスタイルが好きでした。インナーのブラウスもデザインが強いものでぴったり。

横顔のラインも素晴らしくて、キスシーンもすごくフォトジェニック!

まだ出演作数は少ないですが、これからが楽しみな素敵な女優さんです。

 

情報院のアン君&局長コンビも良かった。

アン君ことイム・チョルスは「愛の不時着」の保険外交員役の好演が印象強くて。

ここでもおいしい役もらってましたね。

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身体能力高くて、芸達者な人だなあと改めて感心しました。

もし日本でリメイクするとしたらこの役は八島智人さんあたりじゃないかなーと思いながら観てましたw

 

そして局長も心憎い上司キャラで、私はこういうのに弱いのよ~w

この人も思わず「ブルータス、お前もか!」となりそうですが、そこからの展開が最高なので未見の方はぜひ本編で楽しんでほしいです。

 

あと、これも立派なサブキャラと言えるでしょう、ハトのインザーギ

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いつも睡眠の邪魔をする鳩に迷惑しているヴィンツェンツォ、その鳩がこんな使われ方をするとはうまく考えたものです。

 

インザーギという名前はもちろんサッカー選手のインザーギから、ですね。

サッカーが人気スポーツであるイタリアと、相手の嫌な位置にいるのが上手い選手(サッカー好き談)というところにちなんで名づけられいるとか。

 

招かざる客だったインザーギですが、そのうち餌付けするようになり、癒しの存在になり…とヴィンツェンツォの良きパートナーにw

チャヨンが泊まりに来たときも、インザーギが寝室を荒らしてくれたので、ふたりで同じ部屋で寝る羽目になってしまうという…何気にグッジョブ。

 

何よりすごかったのが、まさかの「鳩の恩返し」www

ヴィンツェンツォのピンチを助けれくれた10話のシーンは「まさかああああ」と笑ってしまいましたが、ヒッチコックの「鳥」のような構図が面白いのでよしとしますw

 

そして、えげつない悪役陣の力!

こういうドラマは悪役が極悪非道であればあるほど報復にカタルシスがあるので、そういう意味では非常によく描かれてました。

 

まずキム・ヨジン

モンスターレベルの極悪弁護士チェ・ミョンヒを演じましたが、「イ・サン」の純貞皇后を彷彿とさせる悪役キャラでさすがでしたね。

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喋り方も変えて、心の底から憎たらしい悪役を演じてくれたので、最期はほんとうに溜飲が下がりましたw

チャングムでは正反対のとても頼もしい味方の役なんですよね、こういうのがドラマの面白いところ。

 

そして、2PMのテギュン演じるチャン・ハンソク

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実というと原田泰三さんが頭にチラチラ浮かぶこと数十回w(ファンの方すみません…)なんでだろう、髪型のせいかしら?

サイコパス設定というのはちょっと安易かなと思ったんですが、超熱演でした。

 

個人的に印象的だったのがチョ・イングク検事

「腐ったリンゴ」のモチーフになったキャラ。

 

本人が正義の人であっても組織が腐っていたら、結局その人も腐っていく…という象徴の役柄でした。

我々日本人だと金八先生の「腐ったミカンの方程式」を連想してしまうわけですがw

ドラマの中でもかなりリアリティのある悪の形かな、と思いました。

 

しかし、韓国ドラマの悪役、いつも思うんだけど腰抜けのわりに偉そうなのはなんでなのw

いざ主人公に追いつめられるとパニックになったり命乞いをするくせに、命拾いして反撃するパターンになるとまた強気になるのがおかしくて。

さっきまでブルブル震えとったやないかい!とツッコミ入れたくなりますw

 

悪は悪で倒すというテーマ

このドラマ、テレビ放送時と配信時で字幕の日本訳が変更になったという出来事がありました。

ヴィンツェンツォのイタリア語での最後の台詞「Il male è forte e vasto」の字幕が

 

変更前)悪は善より偉大だ

変更後)悪は強く果てしないものだ


といったように変わりました。

詳しいことはこちらのブログでぜひどうぞ。

onemore-korea.site

 

私もソンスでは「この台詞の訳はこうしてほしかった~!」的なことをよく言ってましたので、とても心情がわかるトピックですw

 

この箇所に関しては、私も「偉大だ」よりは「強く果てしないものだ」がまだすんなり解釈できるかなと感じましたね。

絶対に勧善懲悪でなければならない、とは思いませんが、かといって悪を肯定されるのはなんとも釈然としないw

 

韓国は全部がマフィアよ
国会、検察、警察、官公庁、企業もすべて
(ホン・チャヨン ep.2)

マスメディアやネット上にある情報を人々が鵜呑みし、権力とお金のあるものだけが利する世界。

それはドラマの中でも韓国の暗部として繰り返し指摘されます。

まさに事実は韓ドラより奇なり…(嘆息)

 

ドラマ自体はヴィンツェンツォの容赦しない報復のおかげで悪党どもは成敗され、ラストはそれなりにすっきりしますが、ドラマのなかだけでしかありえない結末というのが切なくもあり。

だからこそこういう「必殺仕事人」みたいなジャンルは根強い人気があるんだろうなあとも思います。

 

現実はこういった腐敗が表沙汰になることは少ないし、正当な裁きを受けるとも限らない。

それを匂わせるかのように、仕事人・ヴィンツェンツォが成敗した後もすべてが解決していないものがあるかような含みを残して物語は終わります。

 

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このドラマの主題のひとつである「正義だけで悪は倒せるか?」という問い。

その答えとも言えるのがホン・ユチャンの台詞。

「正義を振り回すだけでは腐りきった奴には勝てない。厳しく、強く、ずる賢く、闘わないと」

 

きっと、それは正しいのだろうと思います。

正義は勝つと信じたいけど悔しいかな、「悪はしぶとい」のです、「果てしない」のです。

おぞましいような凶悪というのは確かに存在する。

 

それでも、やっぱり「世の中こんな悪党ばかりではないよね」と思いたいところもある。

目には目を、悪には悪を…ではなく、悪に飲まれこまれない形で対峙する。

そういう道筋も選択肢として残していてもよいのでは…と思ったりするのです。

 

まあ、本音はスカッとやり返したいところなんですがね!

 

世界を掌握するのは賢い人だが
世界を守るのは私のように無謀で頑固な人間だ
(ホン・ユチャン ep.4)

 

この台詞が現実の世界でも通用してほしいもの。